SIPS

http://www.dentsu.co.jp/sips/index.html


① 情報の伝わり方の変化
ソーシャルメディアの出現はそれを根本的に変えようとしている。情報伝播のコアが、世代から「友人・知人とのつながり」へと移行し始めているのである。


② 伝わるためには「共感」が必要になった

ソーシャルメディア上で人々は「共感」でつながっている。(※3)
たとえばTwitterのRT(リツイート)も、Facebookの「いいね!」ボタン、mixiの「イイネ!」ボタンも、共感しないと押さない。共感された価値ある情報のみが広まっていく。友人や知人の共感フィルターを通ることで、より「自分に有益である可能性が高い情報」が選別され、デスクトップやラップトップ、スマートフォンなどで受動的に読んでいるだけで様々な情報が飛び込んでくるようになる。つまりネットは能動的に情報を取りに行く場所から受動的に情報を受け取る場所になりつつある。

いままでも、友人・知人のリコメンドは、マスメディアの情報を補完し、「クチコミ」として大きく機能してきた。それと趣を異にするのは、これまではインフルエンサーによる一般的影響力のあるリコメンドが力を持っていたのに対し、「友人・知人による親身で等身大のリコメンド」の価値が増大したことである。リアルな友人・知人関係が持ち込まれ、誰でも発信者になれるインフラが整ったことで、よりクラスターの近い人々、同じコミュニティ(同じ組織、同じ趣味など)の人々の意見を簡単に聞けるようになった。そしてその方が自分に有益かつ便利(情報摂取までの時間が早い)なことに人々は気づき始めたということである。

このことは「検索」の価値を相対的に低めてしまうことになるかもしれない。情報をフラットに扱う検索は、情報を得たあとに「自分に有益かどうか」を判断しなければいけないが、友人・知人のリコメンドは、クラスターなどが近い分、「自分に有益である確率が高い情報」であることが多い上に、それを友人・知人と共有する楽しさもあるからである。

3)「共感する」(Sympathize)

「共感」がキーポイントになる。

共感には2種類ある。
ひとつは「発信元への共感」だ。企業の場合、それは普段からの企業活動や社会貢献活動、PR活動などによって出来上がる企業イメージがキーポイントになるだろう。またはブランド(商品)に対する共感もそれに当たる。商品力はもちろん、普段からどんな広告・広報活動をしているかも大きく作用するだろう。そして、その情報を広めている個人への共感も大きな要素だ。信用できる友人・知人・有識者・有名人など、「誰がその情報を語っているか」も大きな力を持ってくる。

もうひとつは「情報そのものへの共感」である。企業発・ブランド発の情報を生活者に受け取ってもらうには、ソーシャルメディア上での流通貨幣である「共感」を纏っていなければいけない。いかに彼らに共感されるかが、アプローチ、そしてクリエーティブ表現のキーポイントになるだろう。


4)「参加する」(Participate)

SIPSモデルにおいての共有行動は必ずしも購買を伴う必要はない。

購買まで至らなくても、「ちょっといいかも」と思ったり「とりあえず友人に伝えよう」と考え、RTや「いいね!」ボタンなどで軽い気持ちで友人・知人に広めることが、友人・知人の購買につながる場合もある。これは結果的に企業の販売活動に「参加」していることになる。
また、単にブランドサイトやブランド発のアプリなどで遊ぶことも、その行動がソーシャルメディア上で共有された場合(共有されるように作られていることが多い)、友人・知人の興味喚起につながることになり、これも「参加」と捉えることができる。
さらに、応援者・支援者・伝道者も(それぞれの分析は後述する)、必ずしも購買を伴う必要はない。たとえばソーシャルメディア上でブランド批判を擁護したり応援コンテンツを作ったりなど、必ずしも購買を伴わない応援・支援・伝道行動をすることがある。

これらの購買を伴わない行動、そして購買行動を合わせて、SIPSでは「参加する」(Participate)と呼ぶ。


5)「確認する」(Identify)

さて、「共感」したらすぐ「参加」するかと言うとそうでもない。

情報洪水と成熟市場により、生活者はかつてよりはるかにクレバー&疑い深くなっている。また、ロハスやエコ意識の高まり、サステナブルな生活の浸透、長い不況なども相まって、余計なものを買ったりすることに慎重になっている。
そうなると、共感を覚えた情報や商品が本当に自分の価値観であっているかどうか、本当に自分に有益かどうか、を、検索だけでなくあらゆる手段を用いてチェックするようになる。チェックする手段は、友人や知人の意見、専門家の言葉、専門誌、マスメディアなど、多岐に渡るようになるだろう。そしてその情報や商品が自分の価値観に合い、有益であることが確認(Identify)されて初めて「参加」へと進むのである。

そのときの「確認」(Identify)行動は、機能や価格などの客観的・相対的な比較・検討よりも、より主観的かつ感情的である。
なぜならSIPSモデルは、ソーシャルメディア上の「共感」という主観的かつ感情的な出発点を持っているからである。また、友人・知人の「好み」という主観もそこに入り込んでいるからである。